(……化けたな、私……別人みたいだ……)
 鏡に映った自分を見て、樹李亜(じゅりあ)は思った。

 アルファクラスの編入生歓迎会。タワー六階で開かれるダンスパーティー。
 この日はプロのスタイリスト、ヘアメイクまでがついて、一人一人の身支度を手伝ってくれた。


 エレベーターで六階に上がると、先に来ていた生徒たちが次々に歓迎の言葉をかけてくれた。
 大和(やまと)もやって来て、樹李亜のドレスを褒めた。

「とてもよくお似合いだと思います。これなら、真珠(まじゅ)がドレスを貸すまでもありませんでしたね」
「その節はどうも……恐れ入ります……」

 樹李亜は力なく笑った。会場の離れた所から向けられている、真珠の視線が痛い。

 (ごう)がやって来て樹李亜の近くで足を止める。何か言いたそうに樹李亜をじっと見ている。
 てっきり『馬子にも衣裳』と言われるのかと思っていたら、

「……とてもきれいだ、樹李亜」
「えーーー……」

 あまりにも意外な言葉に樹李亜が驚きの声をあげる。

「そんなに驚かなくても……きれいだと思ったから、きれいだといっただけなのに……」
「いや、だって……」

 そう言う豪の方こそ、きっちりと黒のタキシードを着こんで髪を整えて、目も覚めるようなイケメンっぷりだった。

「かっしーも、ずい分格好いいよ?」
「俺はいつも通りだ」
「あ、そ……」
「樹李亜」

 豪はもう一度樹李亜の名前を呼んだ。

「俺に樹李亜って呼ばれるの、嫌じゃない?」

(何だろう……急にあらたまって)

「別に。何で?」
「いや、栄田(えいだ)さんって樹李亜っていうんだって思って、素敵な名前だなって思って……」

 樹李亜はぽかんと口を開けて豪の顔を見つめる。

(この人……面と向かって、そんなこと言っちゃう人なんだ……照れるじゃないか……)

「……でも、桜子(さくらこ)一楓(いちか)くんも、会ってソッコー私のこと『樹李亜』って呼び捨てにしてたよ?」
「ああ、あの二人ね……」

 その二人が、手をつないでやって来た。

「やあ、お二人さん」
と、一楓が言えば、
「すごいすごい、いいじゃん樹李亜、すっごくきれいよ」
と桜子が興奮した様子で褒めちぎる。

「そうだ、桜子」
樹李亜が言う。
「写真、撮ってくれる? ドレスを着たところ、佐倉(さくら)さんに送るの」
「いいよー」
「ちゃんとしたカメラを借りて来よう」
 一楓がその場を立ち去った。

 待っている間に樹李亜は豪に言った。
「豪くんも、……一緒に写ってくれる?」
「もちろん、喜んで」

 戻って来た一楓が桜子にカメラを渡す。そして気づいたように一言。
「遠いよ」
「?」
「もっと近づいてー」
と、レンズを向けながら桜子も言う。

 樹李亜が何かするよりも早く、豪が樹李亜を引き寄せる。

(わわわ……)
 
 二人はぴったりとくっついて並ぶ。その瞬間、桜子がシャッターボタンを押す。

 笑顔の写真は、お礼の言葉を添えて佐倉夫人に送られた。

<完>