「でもあきらめちゃうんですか?その人のこと」
「その人は今まで独身で、これから結婚して自分の家庭を持って、自分のこどもを持って、っていう希望のある人なのね。だから私は同じ未来を見られない。その人にちゃんとそういう幸せをみつけてほしい。つらいけど」
「大人だなぁ」
「これはかなり強がってるね。でもね、私、誰かを恨んだり憎んだりして苦しむことがどれだけつらいか知ってるのね。だから誰かを好きでせつなくて苦しくてっていう思いは神様にひれ伏して感謝したいくらい幸せなことだって思う。それに誰かを憎んで苦しんでると人は醜くなっていくけど、誰かを好きで苦しんでる分にはきれいになっていきそうじゃない。そうしてきれいになっていけば、今度はちゃんと全面的に恋人として立候補してくれる人が現れるかもしれないじゃない。十年先か二十年先かわかんないけどさ」
「そんな先じゃないっすよ。きっと」
「そうかな。そうだね。そう信じよう。でもなぁ。今は悲しき片思いにひたって暮らすのもいいかな」
「なんか中学生みたいっすね」
「まあいいじゃない。あー、せつなーい」

                     END