哀しみのアンジー 2
「もうね、なかったことにしようかなって思う」
「忘れちゃうってこと?」
「うん、つらくて、ダメなんだ」
「思い出があるから?」
「思い出にならないんだよ。何を見ても、何を聞いても、寒くても、暖かくても、おいしくても、まずくても、あの人を思う・・・なーんてね」
「はぁ、人ごとだとうらやましいわ。ゴメン、本人はどんだけつらいかって、わかるよ。でもさ、それをうらやましいって気持ちもわかるでしょ。大人としては」
「うん、わかる。こんな気持ちになれるのがどれだけ幸せなことかって、ちゃんと知ってる。でも、つらいものはつらいんだ。忘れられなくて」
「ねぇ、忘れられるわけないと思うんだけど」
「え?」
「だって、好きだったんでしょ?好きな人に抱かれたんでしょ?それ、忘れられるわけないじゃん」
「うーん、忘れないとつらいもの」
「忘れようとするから思い出にできないんじゃないの?どんなにつらくてもさ、ずっとずっと思い続けたっていいじゃない。同じつらいんなら、忘れようとしてつらいより、思い続けてつらいほうがいいと思うけど」
「そっか、どうせ同じつらいんだものなぁ」
「そう、恋ってつらいものよ。って今さら何言ってんのかなぁ。十代のころも、二十代のころも、散々思ったでしょう?四十代だって同じだよ。あたりまえじゃない」
「そう、そうだよね。恋はいつでもつらいもの。あ、でもあんなつらかった二十代の恋は今ではいい思い出だなぁ」
「さて問題です。どうして今いい思い出になったんでしょう?」