「うん、向こうもチャレンジャーだよね。よくまあ子持ちのバツイチの40オンナと」
「でも向こうから誘ってきたんでしょ」
「そうです。あくまでもそうです。向こうからです」
「で、むこうはなりゆきだけど、こっちだけ本気になってしまったと」
「まあいわゆるそーゆーわけです」
「恋してしまったのね」
「してしまうでしょう?女は。あんなロマンチックな夜景のきれいな海で抱きしめられてキスされてさ」
「ひゃー、それはしてしまうねぇ。ってゆーかいいじゃん。そんな思いしただけで。あたしたち四十路のバツイチ女だよ。なかなかそんなこと起こんないって」
「うん、わかってる。がんばって生きてきたからね。神様からのご褒美だと思ってる。幸せな夢。ほんのひとときの、甘い夢。わたアメみたいに消えて無くなっちゃうの。でも、からっぽになっちゃっても箱っていう思い出が残ってるからね」
「その箱があるから余計つらいと」
「そーなんだよねぇ・・・」
「って泣くなよ。もー」
「ゴメン、いいじゃん。あたしたち今までろくなことで泣いてないじゃん。こんな風にさぁ、純粋に恋に泣ける日がくるなんて夢みたいだよ。シアワセだぁ。恋して破れて泣く。最高じゃん」
「無理すんなよ。飲め飲め。飲んで泣け」
「うん、泣かしてもらいます。あぁ、かわいかったなぁ。ベッドでもずっと敬語でさ。さっすが体力が違うのよね。20代の男とのセックスはスポーツだよ。なんかがむしゃらでさぁ」
「おおー、思いに浸っております」
「でもさ、やっぱりそういうのより、ぎゅって抱きしめられてキスしてくれたのが一番ドキドキしたよ。きっと50代でも60代でも90代でもきっとそうなんだよ。
うん、あのキスの思い出でまた10年はがんばれるな」
「お、さすが、プラス思考。大人の女だね」
「だってさぁ、生きてかなきゃ。子ども育てて、家守ってかなきゃ」
「だね、なにがあってもね」
「うん、そう。神様、思い出をありがとう」
                
                    END