『え、はい?』
『…えーと、熱が下がらないようなら来週もう一度来て下さい
今日は水分沢山とって休んで下さいね…お大事に』
『あ…はい』
彼女は不思議そうな顔をして小さく頷くと、診療室をそのまま後にした
そんな彼女を俺は、その姿が見えなくなるまでじっと見つめ、再びディスクに体を向けると心の中でため息を吐いた
違う
本当はそんな事を言いたかった訳じゃない
俺が彼女に言いたかった事はそんな言葉じゃない
けれどこんな事しか言えない
他の患者や看護婦の手前、下手な事は出来ない
あくまで俺は医者で、彼女は患者
しかも相手は初対面
まさかどさくさに紛れて
「また会いたい」
なんて言える訳がない
「また来てください」て嬉しそうに言うのも変だし
あくまでも此処は病院
何度も来てもらってはそれこそ本末転倒だ
あー…やべぇなぁ…
何やってんだよ俺は
情けねえ…
『…せんせ』
本当にどうかしてる
なんか胸の中がスッキリしない
『先生!』
『えっ』
『ぼーっとしてどうかしました?次の患者さんお呼びしてもいいですか?』
『あ、ああ…どうぞ』
首を傾げる看護婦に、俺は少し苦笑いを浮かべた
しっかりしろよ俺
患者は彼女だけじゃない、今から次から次へとやって来る
気を引き締めないと
だけど……
会いたい
できるならもう一度彼女に会いたい
俺はこの時、彼女の熱が下がらない事を本気で願わずにはいられなかった



