甘い体温


『ったく…本当にしょうがねー奴だな…』


陽生はまた呆れたようにフッと笑い、私から顔を離した



『安心しろ、俺が此処に残ろうと思ったのは、別にお前のせいじゃない』


『えっ?』


『俺がちゃんと今の自分のことを考えたうえで、決めたことだ』



陽生はそう言うと真面目な声を私に向けた



『…今の自分?』


『ああ、そうだ、まだ俺には向こうに行く程の器を持ち合わせてないって、そう思ったんだ』


『え?器?』


『そう、確かにボストンに行けば今よりもっと世界が広がるし、勉強になることは十分分かってる、…でも……
でもその前に、俺にはまずここでもっと勉強すべきことがまだまだ沢山あるんだって、気づいたんだよ』


『……』


『だからここで今以上に勉強して、もっと自分を磨いてからでもいいんじゃねーかなって、それから向こうに行っても十分遅くはないんじゃないかって…

そう思ったんだよ…だから…別にお前に遠慮してだとか、そういう事じゃないから安心しろ』



陽生はそう言うと、私の腰を囲むように両腕を回した



『それに今、俺を頼って、慕って来てくれる患者さん達をないがしろにはしたくない

うちの病院に来てくれる人達を、今は俺の出来る精一杯で診ていきたいんだよ…

それが今俺がやるべきことじゃないかって、そう思うから…』


『やるべき…こと?」



『ああ、それに今回チャンスを逃したって、生きてる以上、この先いくらでもまた巡って来るって、俺はそう信じてる』


『はる……』


『まぁ…それが何年先になるかは、分かんねーけどな』



優しく笑った陽生


その表情があまりにキラキラしていて、カッコよくて、思わず見惚れてしまうほど


そんな私をさらに追い込むように、よりいっそう、陽生の表情が柔らかくなったと思ったら


『でも、その時は……』


『えっ』


何故か少し黙り込んだ陽生が私の腰に回した腕にぐっと力を込めた