甘い体温


『ごめん陽生…私…遠恋は……』



そんな思いに胸が苦しくなり、思わず唇を噛み締め、陽生の胸から顔を上げようとしたその時――



『あのさ、いろいろ妄想中のところ悪いんだけど…』



再び頭上から、陽生の声が聞こえた



『さっきも病院で言ったばっかりだと思うんだけどさ、人の話はちゃんと最後まで聞こうね、果歩ちゃん』



そう言うと陽生は、何故か呆れたように笑い、私の頭をポンポン叩いた



『確かにさっき俺は明日からボストンに行くって言ったし、それは本当の事だし、紛れも無い真実だよ……でもな

だからと言って別に俺は果歩と遠距離恋愛するつもりもないし、ましてや別れようなんてこれっぽっちも思ってはいないけど?』



『えっ』


『つーか、誰がいつ向こうに永住するって言った?』



その言葉に私の涙は一瞬止まり、目をパチクリさせた



『…へ?』


『俺は一言もそんなこと言った覚えはないし…それに…
そもそも来週の月曜にはまた此処(日本)に戻ってくるつもりでいるんだけど?』



陽生ははっきりとした口調でそう言うと、顔を上げた私の瞳に、視線を合わせた



…は?



……また此処に戻って来る??



何それ!?


ちょ、ちょっとまって!?



『で、でも、前、沙織さんと引越しがどうとか話してたじゃない!?』



私は目を丸くしながら陽生に言った



そうだよ、確かにあの時、病院の院長室で陽生と沙織さんは話してた


ちゃんと聞いてたんだから…


私は陽生の胸元をギュッと握りしめると、グッと陽生に詰め寄った



『あ〜あれな、確かに前々から沙織のお父さん、天本先生に“今度ボストンに新しく出来る病院で一緒に働かないか”て誘われてたんだけど…』


『え、新しく出来る病院?』


『そ、果歩と会うずっと前から、その話は聞かされててな、正直その事についてずっと迷ってたんだよ…』



陽生は何かを思いだすように私から視線を逸らすとフ〜っと息を吐いた