「あなたとは結婚出来ないけど、婚約者のふりをして貰えませんか?」
それが、沙織さんが陽生に告げた提案だった
『え?婚約者のふり??』
驚いた私は、陽生に向かってもう一度聞き直した
そんな私に陽生は「ああ…」と返事を返すと少し苦笑いを浮かべ
『彼女が言うにはな、ここ最近ずっとある人から好意をもたれ、しつこく付きまとわれているから、
その人を諦めさせるために俺にその婚約者のふりをして欲しいって…』
『……諦めさせるために?』
『そっ。で、その代わりに、もしそれをOKしてくれるんなら私から父にこの縁談の話は上手く断っておきます”て条件付きで頼みこまれてさ』
『それってつまり…交換条件ってやつ?』
『ん〜まあ、そんなとこか?』
そう言って陽生は指で頭をかきながら、隣に座る私をちらっと見た
『で、でもちょっと待って、何でまた沙織さんは…初対面の陽生にそんなことを?
他に好きな人がいるならその人に頼んだ方が自然なんじゃないの?』
そんな陽生に私はふと浮かんだ疑問を投げかけた
そうだよ
普通、初めて会った初対面の男にそんなこと言う?
わざわざそんなややこしいことしなくても、その沙織さんが好きだという相手に頼んだ方が、手っ取り早いんじゃ…?
『あ〜それな、どうやらその好きな相手とはまだそんなに親しい間柄じゃなくて、一方的な彼女の片思いだったんだよ』
『え?そうなの?』
『そう、話すこともまだままならない関係で…しかも他に頼める相手もいないって…』
陽生はそう言うとまた前に向き直りふーっと息を吐いた
『まあ、そういう訳でそんな話し聞いた以上、その何ていうかそのままほっとくこともできなくてさ、彼女を見る限り本当に困ってそうな感じだったし、
それに、先生の強引さには正直困ってたから、俺的にも悪い話しじゃないし、丁度いいかと思ってその話にのったってわけ』



