『あなたはもういいわ、休憩に行ってきていいわよ、はい御苦労さま』
『え?いいんですか?』
『どうぞ、いいわよ』
『…え…でも…』
『本当にいいから、あなたは行きなさい。後は陽生に任せるから…
それにあなた、彼氏とランチするんでしょ?』
静香さんは看護婦にもそう言って
「ほら彼氏待たせたら悪いでしょ、行くわよ」と強引に肩を叩いてドアの方へ向かわせた
そして「じゃ、陽生後は頼んだわよ」と、振り向きざまに声をかけると
『しっかり診て貰いなさいよ』
と、看護婦に気づかれないように私に向かってウインクをし、部屋を出た
その顔は優しくて、まるで私に“頑張って”と励ましてくれてるみたいだった
閉ざされたドアを見つめながら、やっと今の状況が把握できた私は、何故かまた胸が熱くなるのを感じ
『果歩』
2人だけになった空間に、陽生の声が響く
その声に、再び胸は締め付けられ、涙腺が緩み始める
後ろからだんだんと近づいてくる足音に、体は反応し
苦しさが押し寄せてくる
来るときは気持ちを伝えたくてしょうがなかったのに
いざ陽生を目の前にすると
感情だけが勝手に先走って
息詰まり、言葉が思うように出てきてくれない
『果歩』
それでも
掴まれた腕が熱い
向き合わされた瞬間
陽生に見つめられたとたん
苦しさはピークに達し
『…陽生……』
我慢出来ずに、私の右頬に一粒、涙がこぼれ落ちた



