甘い体温


ドアを開けるとすぐに、病院独特の消毒の匂いに襲われた


鮮やかな蛍光灯の光が、部屋全体を照らしていて


温かみのある空間が、そこにはあった  


吸い込まれるように、私の足が勝手に動く


さっきまで聞こえていた話し声もせず


部屋はしーんと静まりかえっていた


そして、私の瞳が陽生の姿を捉えた時


一瞬にして、体中いっぱいに切なさが込み上げた





『はる……』


『果歩ちゃん?』



そんな私に気づき、最初に声をかけたのは静香さんだった


私を見るなり、静香さんは大きくて麗いな瞳を、さらに大きくした


『え?…あなたは?』


隣にいる看護婦もまた驚いた様子で声を上げて


『…果歩?』


最後に聞こえてきた声と共に、ガタッという音が診察室に響き渡った


椅子が勢いよく、音を立ててくるくる回る


『……』


たぶん驚き過ぎて声が出ないといった感じ


陽生の瞳が大きく開かれ、私を真っ直ぐ映し出す


私の瞳もまた陽生の姿を映しだし


その場に勢いよく立ちあがった陽生と私の視線が、真っすぐ交じり合う