甘い体温



『はぁ…ったく…
いつからそんな可愛い女になっちまったんだよお前は…』



直輝の溜息混じりの声が聞こえたと思ったら


不意に私の体から直輝の重みが消えた



『こんなことならもっと早くお前を押し倒しときゃよかったよ』



直輝は呆れたように言葉を吐き出すと私の上から離れた


そしてすぐその場に座り込んだと思ったら




『ほら…』



と掛け声と共に私の腕を掴み体を引っぱり起こした



『ほら、もう泣くな…
お前の気持ちは良く分かったから…な。

だからもう泣かなくていい…』



直輝は私のはだけたシャツのボタンをかき集め留めると


私の体を引き寄せあやす様に背中を優しく撫で始めた

優しく背中を撫でる直輝からはもうさっきまでのピリピリした雰囲気はまるで嘘のように落ち着いていて



『…なお……』



その手の感触に波立った私の心もまたじわりと和らぐのを感じ、素直に直樹の肩に顔を預けた



『悪かった』



だけど耳元で聞こえた直輝のその言葉に再び私の心がびくっと疼き


私はまた顔を上げて直輝に視線を向けた



『三月がそんなにあの男のことが好きならもう俺は何も言わねーよ』


『え…』


『もうお前の好きにしろ』

『…なお?』


『俺は別にお前を泣かせたい訳じゃない』



直輝は私の瞳を見ながらフッと顔を穏やかに崩し


そしてすぐに私から視線を逸らした



『…直輝……』



そして私を片手で抱き寄せたまま、もう片方の手を煙草に伸ばすと口に咥えて火を付けた




『それよりも三月、お前男の趣味悪すぎだろ』


『えっ?』


『あんな寒い愛の告白する男なんかの何処がいいんだよ』



直輝は煙草の煙を宙に吐くと私の瞳を真っ直ぐ見つめた