甘い体温



『……』


「これだけはどうしても果歩に伝えておきたかったから…」


陽生はそう言うと、今まで聞いたことない優しい声で


“ごめんな”ともう一度呟いた


まるで何かをふっきったかのように


陽生の声が微かに聞こえた








その後の陽生の言葉はわからない


気づいたら直輝によって携帯の電源は切られ、閉じられていた


直輝は携帯をその辺に乱暴に置くと、再び私に詰め寄ってくる


そんな光景を無意識に瞳に映しながら


私は力なく体を床に預けると、瞼を閉じた




閉じた瞼が熱い


床から伝わる自分の体温が、燃えるように熱い


まるで、私のわだかまりををすべて溶かしてくれるみたいに



『…三月』



優しい声と共に、直輝の手が再び私の頬に当てられる


その指先が少し震えてるような気がした


けれど直輝のその声も、指先の温かさも、今の私には何も感じられない


もう何も伝わってこない


だって…




『三月…』



私が聞きたいのは、この声じゃない



『三月…お前……』



触れて欲しいのは、この手じゃない



『何泣いてんだよ』



抱きしめて欲しいのは、この腕じゃない



『なぁ、三月!』


『…っ……』


『泣くなよ…』



熱さと苦しさで体が震える


押さえてた感情が、壊れたように私の中から一気に溢れだす




ああ…私何やってるんだろう


こんな所で一体、何やってるんだろう


私が欲しいのは




本当に欲しいのは、陽生の温もりだけなのに――…