甘い体温



「…ごめんな…」


『…え』


「何もしてやれなくてごめん…」



え……



その声に、一瞬息が止まりそうになった


ケータイの通話口から、微かに聞こえるだけなのに、まるで耳元で言われてるみたいに、陽生の切なそうな声が私の心響き渡っていく



なんで…



私はケータイを見つめながら、下唇をぎゅっと噛み締めた


何で陽生が謝るの?


謝らなきゃいけないのは、酷いこと言った私なのに


私の方なのに…


気付くと私は再び携帯を掴んでいた


無意識だった


そして考える間もなく通話ボタンを押そうとしたその時――



「果歩…」



それを遮るようにタイミング良く聞こえた陽生の声に、再びボタンを押すことを指がためらう


「果歩、俺は…」


電話に出たい気持ちを抑え、携帯を手のひらのせたまま、私は陽生の言葉に耳を傾けた



「もう…果歩が俺に会いたくないって言うんなら、俺の顔なんて見たくないんなら、もうそれでもいい…」


『…え』


「俺が信じられないなら、無理に信じて貰おうなんて思ってない」


静まりかえった部屋に、陽生の声だけが、響いてる


「果歩が俺を嫌いならそれならそれで構わない、俺から離れたいなら離れてくれて構わない……だけど…それでも……」


陽生はそこまで言うと、少し言葉を詰まらせ


そして私も釣られるように、喉の奥を詰まらせた







「俺は果歩が好きだよ」






えっ?






「お前がどんなに俺を嫌いでも、俺はお前のことが好きだよ」



その言葉に、体中の神経が震えるのを感じた




「それでも俺は果歩を愛してる」