甘い体温


『ふ〜ん、あっそ』


その瞬間、男の呆れた声が、乾いた部屋に響いた


『昨日の夜、俺を通して他の男見てた奴がよく言うよ』


『…え』


『俺が気づいてないとでも思ったか?
お前…昨日からずっと俺が隣にいるのにも関わらず、他の違う男のこと思ってたろ?違うか?
お前演技下手すぎ…ばればれなんだよ』



その言葉と共に、男がジュッと煙草を灰皿に押し付ける音が耳を掠めて私は思わず息を呑んだ


『で、俺はその男の代わりに一瞬でもなれたわけ?』


『……』


『ふっ、まだまだ甘いな三月は……でも、可愛いとこあんじゃん』


そう言うと男は、固まって身動きが出来なくなった私を、少し真面目なトーンで呼んだ


『三月ちょっとこっち向け』


その言葉に、意思とは関係なく、引き寄せられるように私の体が男の方に向いた


そして私が向き直ったのを確認するやいなや男は
「まあ俺がこんなこと言うのもあれだけど」と付け加えながら続けざまに私に言葉を放った



『女の幸せはな三月、やっぱり好きな男から愛されるのが一番だと思うぞ』


『え…?』


『一番好きな男と愛し合うのが一番だってことだ』


そう言うと男は私に悪戯に笑みを向けた


『お前ももう、そんなこと薄々気づいてるんじゃないのか?』


『……』


『クッ、その顔…またまた図星って顔だな、いちいち可愛いらしい反応しやがって…
まあ、でもこれが24年間生きてきた俺の、人生の先輩としてお前へのささやかなアドバイスだ
有り難く受け取っておけ』


男はほんの一瞬真顔なると、不意に私から視線を逸らし、箱に手を伸ばして今日何本目かの煙草に火を付けた


そんな男の行動を無意識に目に焼き付けながら、私の心もまた、苦しいほど熱く焼き付くのを感じた


『お前もさ、もう17になるんだから…そろそろ女の幸せつーもんを考えてもいいんじゃね?』


『たかが24の男にそんな偉そうなこと言われたくない』


『ふっ、それもそうだな…でも、これでも一応塾講師なもんでね、俺』


『…世も末だね』


『俺もそう思う』