甘い体温



『相変わらず冷てーな〜三月は…
せっかく久々に再会したって言うのによ〜

しかも昨日の夜抱き合った仲じゃん俺達?』


『……』


『つーかお前、前に会った時よりも一層冷たさが増してないか?』



男は諦めたように私から離れると、再びベッドのヘッドレストに上半身もたれかけ、箱から煙草を取り出し、火を付けた


その間も、無言で帰る支度をする私



『でも…』



男はそんな私を見つめながら宙に煙を吐き出すと、何故か少し沈黙した




『お前マジな男でも出来たか?』




『え…』



その言葉に思わず目が見開き、服を拾おうとしていた手が止まる


そして私は今日、初めて男の方へ顔を向けた



『図星か』


『…何で…』



私の空気のような呟きに、男は確信を得たみたいにふっと顔を崩した



『何となく、男の感ってやつ?』


『…あんたにそんな感あったの?』


『それがあったんだなぁ〜、これが』


『……』



男は茶化したようにそう言うと、さっきより一層可笑しそうに口の端を上げた



『どんな奴?』


『何がよ?』


『お前をマジにさせた奴』



男は再び、ふーっと宙に煙を吐くと、少しだけだるそうに首を傾けた


その男の視線に、無意識に服を持つ手の力が強くなる



『知らないよそんなの』



私は少し顔を歪めながら、男を睨みつけた



『なんか勘違いしてない?何度も言ってると思うけど、私は誰のことも好きになんかならないの』



低い声でそう呟き、もう一度睨みをきかせると、私は男から視線をそらした


そして手に持っていたカーディガンを素早く身に付け、すぐ傍に置いてあった自分のカバンを手に取る


考える隙を自分自身に与えないように、私はさっさと体を動かすと、何も言わず、男に背を向けた



少しでも



少しでも気を抜くと、私の頭の中に抑え込んでいたものが一気に溢れ出しそうな気がして



とてつもなく怖かった