甘い体温


窓から視線を移した後藤が、何か言いたげな表情で私を見つめてくる


そんな後藤を、少し苛立ちながら見つめた


たけど……


あまりに悲しそうな表情を浮かべる後藤に私は観念し、呆れるように肩の力を落とした



『ごめん…あんたに八つ当たりしてもしょうがないよね…

変なこと言って悪かった、だからそんな顔しないでよ…』


『……』


『私のこと心配してくれてるのは分かるけど、でも、本当にもういいの

陽生のことならもういいから…』


それだけ言うと、私は後藤に少しだけ笑みを見せた


『三月さん…』


後藤はそんな私を、なんとも言えない複雑な表情で見てるだけだった


『そういうことだからさ、私は大丈夫だから…

だからもし陽生に何か聞かれることがあっても、私のことは何も言わないでおいて、ね』



念押しで最後にもう一度「ね」と確認するように告げると、後藤に背を向け、私は再び廊下を歩き出そうとした





『本当にそれでいいの?』





だけど、後藤のその言葉に、再び歩みを止めた私



『好きなんでしょ?』


『……』


『椎名先生のこと、好きなんでしょ?』



後藤の鋭い言葉が私の体を突き抜ける



『後悔するよ』



後藤の声とは思えないぐらいの力強い声



『三月さん、このままだと絶対後悔するよ』



ドクンと鼓動が跳ねるのを感じた



後悔?



その言葉が、脳内を嵐のようにかけ巡った


そんなもの




『もうしてるよ…』


『え……』



後悔ならもうとっくにしてる


それでも…



『だったら…』


『もういいの』



それでも


もういいから


今は何も考えたくないの


もう、そっとしておいて



私は最後にポツリ呟くと、後藤の言葉を無視して今度こそ、その場を後にした