甘い体温


(ーside果歩ー)



『三月さんいいの?』



後藤の心配そうな声に、帰ろうとしていた足が止まる


廊下で立ち止まった私の横を、帰宅する生徒達が何人も楽しそうに横ぎって行く



『いいの』



私は後ろにいる後藤に振り向くことなく、ポツリと言った



『でも椎名先生…』


『関係ないから』



最後まで聞くこともせず、私は後藤の言葉を遮った


聞かなくても、後藤の言いたい事は分かってる


『…私には…関係ないから…』


私は後藤の方へ体を少しだけ向けると、もう一度冷たく言い放った



そう…私にはもう関係ない



心の中でそう呟くと、私は後藤に向けた視線を逸らし、廊下の床に向けた


なるべく窓の外を見ないように…


そんな私の様子に気づいたのか、後藤は肩の力を落とすと、切なそうに窓の外に顔を向けた


そして、窓際に移動すると、窓に手をつき、外の様子をうかがう



『ずっと、あそこにいるつもりなのかな?』



私に問いかけてるのか、独り言なのか、分からないトーンで後藤は呟く



『ずっとだよ…朝からずっと、椎名先生…』



今にも泣き出すんじゃないかと思うような、後藤の声に、思わずカバンを握る私の手が力を増した



『だったら…』


『え?』


『だったら、あんたが行ってあげれば?
そんなに陽生が心配ならあんたが行ってあげればいい』



なんであんたが泣きそうになってんのよ


私はそんな後藤に苛立ちを感じながら、再び視線を後藤に向けた




『…三月さん……』