甘い体温



今まで生きてきて


一日がこんなに長いと思った事はない


いっこうに進まない時計の針


時間が過ぎるのが、やけに遅く感じる


何度も時計を見ては、何も変わらないこの状況に、溜息ばかりが増えていく


時間が経てば経つほど、果歩との距離が広がっていくような気がして、もどかしくなる


もうこのまま果歩と修復出来なくなるんじゃないかって



あの日、医師会の会合が終わるとすぐに、俺は真っ直ぐ果歩のアパートへ向かった


電気がついてることにひとまず安心しながら、時間が遅いこともあってそのまま帰宅


そして、その後の俺は


柄にもなく、何も手に付かない状態が続いている


鳴らない携帯を常に白衣のポケットに忍ばせながら


どうにか仕事だけは、真面目にこなしていた


仕事をしている時だけは、少なからず平静を保っていることができたから



気が付けば


果歩と連絡が取れなくなって、果歩が俺の前から姿を消して


そろそろ一週間になる


あれから俺は毎日のように、仕事が終わると果歩のアパートへと足を運んでいる


仕事が休みの日は、果歩の学校まで行って待ち伏せしたりもした


だけど、果歩に会えることはなかった


相変わらずケータイも繋がらないままで、もちろんホテルに帰って来ることもない


完全に避けられてる状態


それでも唯一の救いと言えば




『おい、ブラ飯だぞ』


俺の言葉にキャンキャン尻尾を振って駆け寄って来る、無邪気なこの存在


果歩が唯一可愛がっていた愛犬ブラウン


こいつがここにいる限り、そのうち果歩がホテルに帰って来るんじゃないかって、まだ完全に果歩とは関係が切れてないんだって、かろうじて思わせてくれていた


そういえば、こいつの前だけは、果歩の奴、すごくいい顔して笑ってたっけな


そんなことを思いながら、俺はブラの頭をそっと撫でた


それに応えるように俺の手にすり寄ってくるブラ



少しホッとする