甘い体温



それから1時間遅れで何とか会議室に到着した俺は、少し気まずさを隠しながらも席に着いた


日頃の行いがよかったのか、他の先輩ドクターから特に注意されることもんなかった


”椎名先生が遅刻なんて珍しいですね~”なんて逆に心配されたほど



まぁ、隣に座る静香1人除いては…



だけど静香も初めこそは睨みを利かせてきたものの、それ以外何も言うことも無く、何も聞こうともしなかった


勘のいい静香のことだ、俺のただならぬ様子に気づいてのことだとは思うけど


そんな静香を横目に俺は手元の資料に目を通しつつ、考えるのはまったくく別のこと


はっきり言って、資料の内容も、向かいで話してるドクターの声も、今の俺にはまったくく入ってこない


聞こえてくるのは、果歩の最後の言葉と


果歩が最後に見せた、あの泣き顔だけ



”二度と私の前に現れないで”



泣きながら言う果歩の声が、ずっと俺の耳に焼き付いて離れない


果歩の苦しそうな顔が、俺の心臓を鷲掴みにする


それに……



さすがの俺も正直…きつい



好きな女からあんなセリフ言われて、傷つかない男なんているんだろうか?


いや、正常な男だったら、まずいないだろ


つーか、あんな言葉そうそう聞けるもんでもねーしな


とはいえ、あそこまで果歩を追いつめたのは他でもないこの俺だ



俺が果歩を傷つけた



それがたとえ誤解だとしても、俺が果歩を傷つけたことには変わりはない



何やってんだよ、俺



一番泣かしたくない女泣かしてどうすんだよ


肝心な時に傍にいてやれなくてどうすんだよ


ここに来る途中、何度も果歩の携帯に電話したけど、電源を切ってるのか、まったく繋がらなかった


不意に俺の中で、容赦のない不安が押し寄せてくる


それと同時に、何もできないこの状況に、苛立ちが込み上げる


果歩が今どうしてるのか、気になってしょうがない



今もまだ泣いてるのか?


もう心配でしょうがねえ……