『陽生あんた今何処で何やってんのよ!もうとっくに会合始ってるのよ!』
電話の相手は姉貴の静香だった
しかも電話に出るなり、すごい剣幕でまくし立ててくる
その声に顔が歪み、思わず耳から携帯を少し遠ざけた
『は?…会合?』
って…
あっ!
静香の言葉に、不意に我に返った
やべっ…忘れてた
腕に巻かれた時計を見ると、静香の言う通り会合はとっくに始まってる時間だった
ちっ…こんな時に限って…
こんな時に限って今日は月に1度の医師会の集まり
しかも結構大事な会議で、休むわけにもいかない
はぁ〜まじかよ
タイミング悪すぎだろ…
その瞬間、溜息が俺の口からこぼれた
『ちょっと陽生大丈夫?あんたが仕事でミスするなんて珍しいじゃない?
何かあったの?』
静香の鋭い言葉に、思わず言葉に詰まりそうになる
『あ〜…いや…何でも…
わりぃ…すぐ行くわ』
心配そうに声を向ける静香に俺はそう曖昧に返事をすると、一方的に携帯を閉じた
そしてすぐさま、また果歩の居た方向を見つめる
けれどそこに、は当たり前のようにもう果歩の姿は何処にもなくて…
その光景を前にした俺は、何とも言えないもどかしさが俺を締め付けられ
今日何度目かの溜息と共に、手でクシャット髪を掴んだ
あ〜くそっ!
こんな時、果歩と同じ立場なら
同じ学生だったなら、立場や責任なんか何も気にすることなく、今すぐにでも追いかける事が出来たのに…
今すぐに抱きしめに行くことができるのに…
こんな時大人の方がよっぽど窮屈で不自由なもんなんだなと思い知る
やりきれなさに、胸がキリキリ傷む
思わずフッと息を漏らし
苦笑いを浮かべた俺は、重い気持ちと重い足取りで病院の方へと引き返した



