甘い体温


(ーside陽生ー)



『果歩!!』



ほんの気を緩めた一瞬だった


果歩の腕が俺の手からするりと離れ、気づいて掴み直そうと思った時にはもう遅かった


まるでスローモーションを見ているかのように果歩の腕が俺の手をすり抜けていくのが見えた



この手を放したら


この手を放したら後戻りできなくなる


何故か直感でそう思った



それなのに



俺は果歩の手を捕まえることができなかった


引き留めることができなかった


その瞬間俺はたまらず拳を握りしめた





っふざけんなよ!


なんだよこれ




どんな思いで


どんな思いで俺が今までずっと……


やっと


やっとここまできたって言うのに


こんなことで終わらせてたまるかよ


こんなことで諦めてたまるかよ!!




『果歩!!』


俺は走り去る果歩の背中に向かってもう一度叫ぶとすかさず後を追いかけた



だけど……



無情にもそれを阻止するかのように携帯の着信が鳴り響いびいて俺の足のスピードを無くさせた



ちっ、誰だよこんな時に…



そう思いながらも俺は、白衣のポケットから携帯を取り出すとぶっきらぼうに電話に出た