私はそう叫ぶと、陽生に掴まれていた腕を再び振りほどいた
『果歩!!』
陽生が必死で呼び止めるのも聞かずに、私は彼に背を向け、走りだしていた
もう
苦しくて
痛くて
どうしようもなくて
陽生から離れたい一心で走った
走って、走って
気づいた時には自分のアパートの前に、息を切らしながら立っていた
途中どうやってここまで来たのか、そんなの覚えてない
無意識に足が勝手にここに向かっていた
心臓はあり得ないぐらい波打っていて、頭も意識がはっきりせず、朦朧としていた
そんな中で、私は目の前の扉に目を向けた
『…修理終わったんだ…』
見るとつい最近までドアに張ってあった”修理中”の紙は剥がされ、なくなっていた
実はこないだ、アパートの管理の業者から”無事修理終わりました”って、携帯の留守電に入ってて
新しい鍵をこっそりホテルに送ってもらったんだよね
でも……
ここに戻ってくるのはまだもう少し先だと、当たり前のように思ってた……
私はカバンから鍵を取り出すと、ガチャっと差し込み、玄関の扉を開け部屋の中に入った
その瞬間、木材の真新しい匂いが鼻を掠めた
部屋を見渡すと、修理のせいか、前より部屋が新しく、綺麗になっているのに気づく
だけどテレビや冷蔵庫、机やベッドはちゃんと元あった場所に置かれていて、その光景を見たとたん
張り詰めていた気持ちがスーッと和らぎ、一気に体の力が抜けてくのを感じた
そして力を無くした私は耐えきれず、崩れるようにそのまま玄関にしゃがみこんだ
それと同時に私の瞳から、熱いものがこれでもかというくらいに零れ落ちてきて
『…っ…うっ……』
溢れる涙も漏れる声も、我慢できずに思いっきり吐きだした
自分の弱さに
やり切れない思いに
泣いて泣いて…泣いて
しばらく私は、そこから動く事ができなかった



