甘い体温


外にいるのにもかかわらずやけに自分の声が大きく遠くまで響いた気がした


そのせいで何事かと周りの通行人の嫌な視線を痛いほど感じた


だけど今の私には、そんな視線なんか気になるはずもなくて…


それぐらいもう、壊れたように自分から溢れて出る感情を、抑えることができなかった



この時



ほんの少しでも自分が冷静でいれたなら、落ち着いて話が聞けてたなら


陽生のことを少しは信じてあげられていたのかもしれない


そうしたら、あんなに苦しむことも、陽生とこじれることもなかったかもしれないのに…


だけど…完全に自分を見失い、冷静さを無くしてしまった今の私には、そんな簡単なことでさえできるはずもなかった


例えそれが、自分をもっと追い込むことになるだけだったとしても…




『…全部…嘘だったんでしょ?』


『…え?』


『今まで私に言ってきた言葉も、私に対しての気持ちも…』



私を好きだと言ったことも、守ってくれるって言ったことも




全部…全部…




『全部嘘だったんでしょ!』


『は?…お前何言って…』


『私のこと騙して、面白がってたんでしょ?』


『…果歩?』


『本当は私のこと、好きでも何でもないくせに!』




…好きじゃない



自分で言った言葉が、自分自身を容赦なく傷みつけていく


そしてその言葉を聞いた瞬間、陽生の表情が一気に鋭く強張り


今までの空気がさらに冷たいものに変化したのを、肌で感じとった


だけどそれでももう、自分から出る言葉を止めることは出来なかった



『どうせ、優しくすれば簡単にやれる女だと思って、心の中ではバカにして笑ってたんでしょ!?』


『……』


『本当私も軽く見られたもんね!
私はあんたの…金持ちの暇つぶしのおもちゃなんかじゃな……』



『いい加減にしろ!!』



陽生の冷たい声が、突然私の言葉を遮った



その声は、私達を取り囲む空気を一瞬にして凍りつかせるものだった