甘い体温


心配そうに陽生を見つめる女性


けれどその視線に陽生は応えることなく、私から視線を逸らそうとはしなかった


そんな陽生の態度に、女性の視線はすぐに私へと向けられ、その瞬間うんざりするほど視線がばっちり重なり合った


『…あなたは?』


その声にドクンと鼓動が反応し、何故か鳥肌が立つのを感じた


意志の強そうな瞳に見つめられ


女の放つ甘ったるい香水の匂いが、不意に私の鼻を掠め、その匂いを感じた私は、とてつもない苛立ちを覚えた




苛立ち?


ううん、違う


怒り?


ううん、それも違う


そんなもんじゃない



苦しさや切なさや悲しみ、それが全部混ざり合ったような、そんな感情


こんな感情は生まれて初めてで


そのとてつもない感情に、心が占拠された


そしてその瞬間、私の中でずっと張り詰めていたものが、一気に音を立てて弾け飛んだ





『この人と結婚するの?』


女の問いかけを無視し、冷たく視線をそらすと再び陽生を睨み付けた


そのストレートに放たれた私の言葉に、陽生の目がさらに大きく見開らいたのがすぐに分かった


陽生は言葉を詰まらせ、私をじっと見つめてくる


そんな状況で、陽生は取り乱すことなく、いつものように冷静に見えたけど


だけど私を映し出す瞳には、いつもの陽生からは想像できないくらい、動揺の色が浮かび上がってるのを感じた



少しの間、そんな陽生を見つめていたけれど、いっこうに何も話そうとしない彼に心底虚しくなった


虚しくて惨め、そんな気持ちが私を支配し始める



『ふっ、バカバカしい』


『…え?』



次の瞬間、私は諦めたように顔を崩すと、力を抜いた



『もう…いいや…』


『…果歩?』



その私の言葉に、陽生が息を呑むのが分かった




『…最低だよ』




私は唇を噛み締めながら、陽生を真っ直ぐ見据えた


心が、潰されるように痛い




『あんたなんか最低だよ!』