甘い体温


その声に、ゆっくり私は顔を上げた


すると、そんな私の存在に気づいた陽生とすぐさま視線が交わり、今までにないぐらい激しくドクンと心臓が波打った


さっきの物音で気づいたのか、陽生はすでにソファーから立ち上がっていて、ドアの前に立ちつくす私に驚き、目を見開いていた


その瞬間、空気がピーンと張り詰めたものに変わる


陽生の姿を改めて見たとたん、ぎゅっと胸が縮むのを感じた


体が金縛りにあったみたいに硬直して、思わずドアの取っ手をぎゅっと握りしめた



『…果歩、お前…』



陽生の驚いた声が漏れ


その声に、さっきより一層激しい息苦しさが、私に襲いかかった



『ひょっとして今の話し聞いて……』



陽生の言葉に、思わず顔を歪める


当たり前だけど、この状況に、私のただならぬ雰囲気に、勘のいい陽生が気づかない訳がない


私の表情ですべてを悟った陽生はそう言うと、今まで見たことがない真剣な顔で、私に向かって一歩、歩み寄ろうとした


だけど、それを阻止するかのように私は声を出した



『…ずっと騙してたの?』


『えっ』



私の低くて小さい声がこぼれる


自分でも今まで出したことも聞いたことのない、低く冷めた声


その声に陽生の足がピタッと止まった



『私のことずっと騙してたの?』



私はもう一度そう呟くように言うと、目の前に立ちすくむ陽生を思いっきり睨みつけた



―――騙して面白がってたの?



その言葉が、頭の中でリピートを繰り返す


何か得体の知れない感情が一気に込み上げて、溢れ出してくるのを感じた





『…陽生…さん?』


それと同時に、ずっと黙っていた女性の声が突然聞こえて


そこで初めて、私はソファーに座るその女性に視線を向けた


するとそこには、長い髪を綺麗に巻いて、いかにもどこかの令嬢と言った面立ちの女性が何事かと陽生を不安そうに見上げていた