『昨日はご馳走様でした』
柔らかな女の声が聞こえて、扉を開く手が”ビクン”と思わず硬直する
その声に、思わずドアを開けるのを途中でやめてしまった
『いえ、こちらこそ』
そんな私を煽るように、続けざまに陽生の声が聞こえて”ドクン”と胸が痛んだ
『昨日は久々に陽生さんとゆっくりお話しできて、楽しかったです』
『ええ』
『うちの父も、陽生さんと久しぶりに話せてよかったって』
『はは、それはよかった』
静かで落ち着いた、当たり障りない大人の会話
こんな雰囲気で話す陽生の声を、初めて耳にする
そんな事にまで、気持ちが敏感に反応しそうになってしまう
それに
昨日って?
そんな二人の会話に、ふと不安が過った
昨日って確か、仕事が終わってから仕事関係の人と会うって陽生…言ってなかったけ?
うん…確かにそう言ってた
…それなのに……
この人と会ってたの?
そうなの?



