甘い体温



『誕生日おめでとう』


『……陽生も』


カチンとグラスが合わさる


それから私達はディナーを楽しみながら味わった


正直、自分でもらしくないことしてるなと思いつつ、普段絶対味わえないこの雰囲気に呑まれてしまったせいなのか


はたまたこのキラキラ輝く夜景のせいなのか、驚くほど素直な反応をする自分がいた


自分でも以外だった


今日の私は、本当に変なのかもしれない


私の隣で目を細めて笑う陽生に、ずっとドキドキしている


いつもと違う服の陽生の雰囲気に、何気ない仕草に、驚くほど大人の男を感じた


すれ違う女の人が、陽生を振り返りながら見とれている


その視線に何度か気づいて、改めて陽生はもてるんだと思い知らされた私は


少し複雑な気持ちに襲われた


当の本人はそんなこと知ってか知らずか、爽やかな顔して私に微笑んでくる


私だけを真っ直ぐ見ていてくれているかのような陽生の瞳に


何度も吸い込まれそうになっていた


胸が締め付けられる感覚を感じながら


私は、夜景を見ることで気を紛らわした


無意識にそうしないといけないと思ったから


でないと、もう取り返しのつかないことになりそうで……


怖かった


この時の私は、自分の奥底からこみ上げてくる得体の知れない感情に気づかない振りをすることで、なんとか自分を保とうと必死だった