その瞬間、港の潮の香の混ざった冷たい風が、私の顔の体温をさらった
寒さで思わず体がすくむ
目の前には、白くて大きな豪華客船が、デンッと神戸の海の上に浮かんでいて
改めて目にすると、やっぱりすごい
『今からこれに乗るの?』
『そう、神戸の夜景を見に』
私は陽生の返事を聞きながら、あまりの寒さでマフラーを掴んで口元まで上げた
どうやら夜景好きの私のために、考えてくれたプランらしい
別に私はそんなこと、一言も陽生に言った覚えはないんだけれど、いつもホテルの窓から眺めているのを見て知ってるし
陽生のことだから、たぶんそう思ったんだと思う
まあ、実際、夜景は好きだしね
でも…なんて言うか、本当抜かりないってゆうか……
陽生らしいなと思った
だけど、そう思いつつも…さりげない陽生の優しさに、少し嬉しさがこみ上げるのを感じていた
陽生が言っていた海ってこういう事だったんだと
やっと全てを理解した私は、隣の陽生に視線を向けた
私の視線に気がついた陽生は、何のためらいもなしに優しく微笑み、私の手を握る
『そろそろ出港時間だから行くぞ』
その言葉を合図に、陽生の温かい手に引かれて私は、夜の海へと足を進めた
生まれて初めて入る未知の世界に期待を膨らませ、私の胸はドキドキ波打っていた
『…すごい』
もうその言葉しか出てこなかった
中に入ってすぐ、目に飛び込んできたのは、左右に連なるらせん階段
船の中だとは思えないぐらい、広い船内
全然揺れてる感じもなくて、本当に海の上にいるのかと錯覚するほど
それに一番はやっぱり船から見える神戸の夜景
もう、どれもこれもすごく綺麗で…柄にもなく感動してしまった
そんな私を見て、陽生は満足そうな顔をして、時々私に視線を向けてくる



