『あ、それから…』
そんな私をよそに、亮が何かを思い出したかのように、声を上げたので私は思わず彼を見つめた
『それからはい、これ』
『へ?』
『陽生に飽きたらここにいつでも連絡して』
『は?』
『いつでも俺が相手してあげるから』
そう言うと、ケータイ番号の書かれた1枚の名刺を私に手渡した
『……』
さっきの真剣な表情はどこへやら、満面な笑みでニヤッと不適に笑いかけてくる亮
さっきの真面目な表情は幻覚だったのか?
私は再び亮に冷たい視線を送ると、ため息交じりに手に持った名刺を眺めた
すると突然、私の手からヒョイっと名刺が消えた
『ったく、お前は…油断も隙もねーな』
ビックリして振り返ると、電話を終えた陽生が、眉間に皺を寄せながら、私から取り上げた名刺を持っている
『果歩、まともにこんな奴の相手してねーでさっさと帰るぞ』
そう言って、陽生は名刺をくしゃっと丸めると、亮の目の前でポイッと捨てた
『うわっ、ひでー』
嘆く亮を陽生は冷たくあしらうと、私の肩を抱き寄せた
「じゃあまたな」そう一言告げて、陽生は私の肩を抱いたまま、亮から背を向ける
『まあ、せいぜい仲良くな』
後ろから聞えてきた亮の声に、陽生は軽く手を上げて応えると、そのまま振り向くこともなく、お店を後にした
車に向かう途中
さっき亮に言われたの言葉を思い出した私は、ふと陽生の方を見た
寂しがり屋で私と似てる?
……陽生が?
陽生の顔を眺めながら複雑な思いを巡らせていたら、私の視線に気づいた陽生が、不意に私の方を見た
『ん?どうした?』
不思議そうに私を見る陽生
『…ううん、別に…』
けれど、当然そんなこと本人に聞ける訳もなく
何事も無かったように陽生にそう言うと、私はまた前に向くしか出来なかった



