甘い体温


『果歩知ってるか?』


ある程度し終えた後、ずっと黙って私の話を聞いてた陽生が突然口を開いた



『幸せになれない人間なんていないんだよ』


『えっ』



陽生の声に驚いた私は思わず顔を上げる



『人はみんな自分の気持ち次第で、いくらでも幸せになれるんだよ』



そう言うと、陽生は私の肩をそっと抱き寄せる



『確かにこの世の中、矛盾してることが多くて納得いかないことも多いかもしれない
やり切れないことも沢山あるかもしれない

だけど辛いことばっかり続くわけじゃない

幸せはみんな平等に与えられるものなんだよ』



『え、平等?』


『そう、いくら良い人間でも、その反対に極悪人でも、辛いことも楽しいこともみんな平等にやってくる、楽しいことはすぐに終わってしまうように、苦しいことも長くは続かない

それに、いくらお金を持ってて地位がある人間が今幸せか?と言ったらそうとも限らないし、その反対に金がなくて生活に苦労してる人間が不幸か?と言ったらそうとも限らない

人はいい事も悪い事も平等に経験しながら生きてくものなんだよ

それを繰り返しながらちょっとづつ成長してくんだよ』



『……』



いい事も悪い事も平等に…


私は陽生の言葉に瞬きをするのも忘れて、いつの間にか真剣に聞き入っていた



『それに俺もそうだけど、自分が今何の為に生きてるかなんて意外とみんな分かってないんじゃないか?

逆に分かってる人のほうが少ないんじゃないかと俺は思うんだけど?』


『え?陽生もそうなの?』



意外な陽生の言葉に、私は思わず上擦った声を出してしまう


そんな私に、陽生はフッと顔を崩すと



『俺だってそんな出来た人間じゃねーよ、自分が何の為に今こうして生きてるのかなんていくら考えても答えなんか出てこない』


そう言うと陽生は私の頭をポンと叩き


『それよりも、何のために生きてるの?て考える暇があるならどうやったら幸せになれるのかを考えろ』


『えっ…』