『果歩』


陽生は私の傍にくるなりいつもより低い声で私の腕をつかんだ


腕を掴まれた瞬間、私の体が何故かビクッと少し強張る



『お前…こんな時間まで何してたんだよ、電話しても繋がんねーし、心配するだろ?』


『……』



陽生の問いかけに、私は俯きながら無言で返事を返す



『おい、聞いてるのかって……果歩?』



一向に話そうとしない私の様子に変に思ったのか、今度は不思議そうに私の顔を覗き込む


だけどどうしても今は陽生の顔を見るのが嫌で、私は顔をそむけた



『…別に…どこだっていいでしょ』


『えっ』



私はそっけなく掴まれた腕を振り解き、陽生を無視して部屋の中へと足を進めた



『…果歩?』



だけど私の態度にさすがの陽生も心配そうな声を向けてくる


そして陽生は再び私の腕を掴むと自分の元へ私を引き寄せた



『本当にどうした?』


『別に…』


『別にじゃないだろ、何かあ……』


『離して!』


『えっ』



突然響いた私の怒鳴り声


私の言葉に陽生の動きが止まる



『私が何処で何しようと陽生には関係ないし、言う必要もないと思うけど?
大体、彼氏でも何でもないんだし、いちいち干渉しないで!!』


『……』


『分かったらこの手…離してくれない』



私は陽生の顔を見る事無く冷たくそう告げ、俯いた


無言のまま立ち尽くす2人


今陽生が一体どんな顔をして私を見てるのか分からない


だけど、今はっきり分かるのは私と陽生との間に気まずい空気が流れてるのは確実で…


どうしてか、今は陽生の声を聞いてると無性にイライラしてしょうがない


それと同時に胸のモヤモヤ度が増して苦しくなる


私は、自分の感情を振り払うように再び陽生の手を振り払うと、陽生に背を向けた


そして歩き出そうとしたその時、陽生の手に再び腕を掴まれた私は


ドンッ”っと鈍い音と共に思いっきり壁に押し付けられた