甘い体温


『なーんてね、ちょっと前の話しだからそんなに深刻にならないでね』


そう言って、彼女はあっけらかんと笑う


『……』


『ほらほら、そんな顔しないでよ三月さん、そんなたいした事じゃないからさ

なんか、以外と三月さんって素直なんだね』


そう言ってケラケラ笑う彼女を、私は複雑な気持ちで見つめる


だって


ふと制服の袖から見えた手首には、無数の傷跡みたいなものが後付いていて、笑いごとじゃないってことははっきり物語っていた



…これってそんなに平然と明るく笑うとこなんだろうか?



どうも調子が狂う



まぁ、急に泣かれても困るんだけどね


そんな事を思いながら彼女を見ていたら



『私さ、親いないんだよね』


『えっ』


『小学生の時にお母さん病気で死んじゃって、その後すぐお父さん私を捨てていなくなってさ
まあ、元々昔から父親とは折り合いが悪かったのもあったんだけどね』


不意にそこまで言いかけてやめると、思い出すかのように顔を上に向けた


『その後はもう散々でさ、一人残された私は親戚の家にたらい回し、行く先々で散々嫌味言われて育ったんだよね…

中学入ったころかな、そんな生活繰り返すうちに私ってなんだろうってだんだん思えてきて、なんの為に生きてるのか分からなくなってさ

誰にも必要とされないならもう私なんか生きててもしょうがないかなって思って、辛いだけだなって、この先自分がどう生きたらいいかも分からなかったし、

そしたらなんか、もういいかなって…』


『……』


さっきの明るさとは違い、不意に見せた切なそうな横顔に私は思わず胸を締め付けられた