恋愛経験のない羽海にも、このあとの展開はなんとなく想像できる。
理性的な自分が『ダメ!』とぶんぶん首を横に振っているそばで、心の奥底に眠っていた自分でも知らない感情が目覚め、彗の胸元を押し返していた手の力を緩めろと指示を出す。
慣れない伝達がうまくいかず、力を緩めるどころか、彼の服をぎゅっと握りしめた。
すると、目の前の彗が小さく息を呑む。
それが合図となり、羽海の膝裏に手を入れると、あっという間に抱き上げて自室に向かって歩き出した。
「きゃあっ!」
ファーストキスに続き、初めてのお姫様抱っこに狼狽えるが、彗は気にする素振りもなくベッドへ降ろした。
羽海が「やっぱり無理」と言えば、多少気まずくなるが引き返せる。いや、引き返すべきだ。
そう理解しているはずなのに、羽海はその言葉を言えずにいた。
「羽海」
彗の声で紡がれると、自分の名前がとても綺麗で愛おしいものに思えてくる。



