(な、なんで……?)
驚愕で涙は止まり、固まったまま何度もぱちぱちと瞬きを繰り返す。
ただ、意外なほど嫌悪感は湧かなかった。
合わさるだけの唇が離れていく気配に喉を震わせると、名残惜しそうに舌の先で下唇を舐められビクッと肩が揺れる。
「み、御剣せん、せい……?」
唇が解放されても頬と腰はしっかりホールドされていて、服越しにも伝わる体温に鼓動は速まり、不思議と安心できる香りが鼻腔を擽る。
逃げようにも逃げられない体勢で、羽海は困惑したまま自分を囲う男の顔を見上げた。
(どうして? なんでキスなんか……)
頭の中ははてなマークだらけで、一瞬の口づけで思考回路が使い物にならなくなったようだ。
「泣くな」
彗は低い声でそれだけ言うと、再び顔を寄せてきた。
涙を止めるだけならば、もうその目的は達成されている。それでも彼はもう一度唇を重ねた。
先程の合わせるだけのキスとは違い、彗の舌が唇の合わせを開けろと言わんばかりに往復する。



