祖父も他界しており、特に男親というものを知らずに育った羽海は、もしも父が生きていたら、野間のように自分の写真を待ち受けにして周囲に見せて回ったりしたのだろうかと想像を巡らせたりもした。
会ったこともないけれど、野間の娘に自分の幼少期を重ねていたのかもしれない。
彼女は自分のような寂しい思いをしなくて済むのだとわかると、安堵と幸福感と、そして少しの切なさで心がいっぱいになった。
「御剣先生は野間さんだけじゃなく、野間さんの家族も救ったんですね」
羽海が照れくささからたどたどしい口調で涙のわけを話し終えると、改めて手術を終えた彗を労おうと笑顔を向ける。
すると目の前の彗の喉がぐっと鳴り、身体を密着させると、頬に手を添えて親指で涙を拭われた。
優しい指先の感触と近すぎる距離にドキッとする間もなく唇が重ねられ、驚きで目を見開く。
「んっ……⁉」
向かって左に傾けられた端正な顔は至近距離でも美しく、伏せられた瞳を覆う睫毛がやけに黒く映った。
キスをされているのだと気付いたものの、なぜこんなことになっているのかも、どう反応したらいいのかもわからない。



