天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


俺様で傍若無人と噂の彼が、寝る間を惜しんで勉強しているのだと一体どれだけの人が知っているだろう。それを間近で見ていたのは羽海ひとりだけ。

色んな感情がごちゃごちゃと胸の中で渦巻き、零れる涙を止められないでいると。

「羽海?」

キッチンを覗きに来た彗の怪訝な声音で、ハッと我に返る。

「あ、御剣……先生」
「どうした、気分が悪いのか?」

慌てた様子の彗が肩を抱くように傍らにしゃがみ込み、心配げに顔を覗き込まれた。

左手で羽海の額の熱を計り、右手は手首で脈を確認している。

突然予告なしに触れられてドキッとするが、具合が悪いと勘違いさせてしまったのだとわかり、羽海は小さく首を振った。

「ごめんなさい、違うんです。さっきの先生の話を聞いたらホッとして……」
「さっきの話?」
「野間さん、小学生の娘さんがいるんです。私は小さい頃に両親を亡くしたので……野間さんがご家族のもとに帰れるんだと思ったら、嬉しくて」

貴美子は愛情いっぱいに育ててくれたが、やはり両親がいないのを寂しく思う時もあった。