野間と同じ病室の患者にも手術の成功は伝わっただろうか。彼らも気を揉んでいたので、今頃ホッとしてるだろう。
野間の家族や、入院仲間の吉報に喜ぶ患者たちの気持ちを思うと、瞳に涙が滲む。
(やだ、泣きそう……)
じわりと目頭が熱くなり、羽海は零れそうな涙を見られたくなくて、彗に対して返事をしていないのも気付かずに席を立った。
「コーヒーでも淹れますね」
不自然なほど顔を背けてそそくさとキッチンへ向かい、頬を伝う涙を指先で乱雑に拭う。
しかし一度緩んだ涙腺はなかなか戻らず、羽海はキッチンの床で蹲り膝に顔を埋めた。
「野間さん、よかった……」
大きく長い息を吐き、なんとか気持ちを落ち着かせようと努めるが、ぽたぽたと落ちる雫がスカートに滲んでいく。
ここまで感情移入しているのは、羽海にとって唯一の肉親である貴美子が入院しているからかもしれない。
家族の元に帰りたいという野間の気持ちはもちろん、元気に帰ってきてほしいという家族の気持ちも痛いほどよく分かる。
そして、その両者の強い願いを叶えたのが、症例が少なく難しいと言われる手術を成功させた彗なのだ。



