なぜ羽海が御剣総合病院の特別病棟についてここまで詳しいのかといえば、彼女もこの病院で働いているからなのだが、今はそれどころではない。

「え、成瀬貴美子ですよね? 特別病棟にいるんですか?」
「ええ。今朝からお移りいただいたみたいです」

個室はただでさえ割高な料金がかかるというのに、特別病棟だなんて一体一泊いくらするのか。

貴美子は旧華族の出身でおっとりとしたお嬢様気質ではあるが、祖父と結婚してからは質素な生活をしており、祖父と両親が他界してからは、羽海とふたり慎ましやかに生きてきた。

そんな貴美子が自ら特別病棟を望むとは考えにくい。

なにかの手違いだとしたら、貴美子には何度も移動させて申し訳ないが、元の四人部屋に戻してもらわなくては。

医療保険で手術費などは賄えても、個室の病室代は出ない。一日数十万はするであろう個室に二ヶ月も入院だなんてことになったら、とても払いきれない。

(まずはおばあちゃんに聞いてみよう。なんの説明もなく病棟を移動になんてならないだろうし、なにか病院側から話があったはず)

案内してくれた看護師についていき最上階でエレベーターを降りると、マホガニー材の大きな扉で区切られた病棟へ入っていく。