天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「あの、今日手術だった野間さんなんですけど……」

毎日複数のオペをこなす彗でもセンシティブになるような手術だったのは、ここ数日の彼や病棟の様子から素人の羽海でも想像できる。

医療従事者でもない羽海がその話題を出していいのかすらわからず、しどろもどろになりながら野間の名前を口にすると、聞きたいことを察した彗が簡潔に答えてくれた。

「あぁ、無事に終わった。術後の経過も悪くないから帰ってきたんだ。このままいけば一ヶ月くらいで退院して、慣れてくれば普通の生活が送れる。もちろん定期検診は必須だが」

手術は成功し、あと一ヶ月後には家族の待つ自宅に帰れる。

そう知った羽海の脳裏に、娘の写真を愛しげに見つめていた野間の顔が浮かんだ。

病棟で働いていると、退院していく患者を笑顔で見送ることもあれば、そうでない場合ももちろんある。

清掃に入った病室が次のシフト時には空室になっていて、なんとも言えない気持ちになった経験もある。

(野間さんは、家族のもとに帰れるんだ)

昨夜からずっと気を張り詰めていたせいか、安心して身体から力が抜ける。