天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


以前はソファにいることが多かったが、実家では食べる時間がずれても、羽海がひとりで食事をしないよう貴美子がテーブルについてくれていたのを思い出し、なんとなくそれに習っている。

特に会話があるわけではないし、なにか求めているわけでもない。

ただ綺麗な所作で次々と料理が胃袋に収められていく様をぼんやりと見ているのが最近の日課だった。

「ありがとう。美味かった」

食事を終えて手を合わせた彗がぼそりと放ったひと言に、羽海はぎょっとして正面を見つめる。

(初めてお礼を言われた)

挨拶やメッセージの返信すらしない人だったのだ。たまに「美味い」と独り言のように呟いても、感謝の言葉など口にしないと思っていた。

そもそも家事は無償で部屋に置いてもらう代わりに自己満足でしているだけに過ぎず、彗は不要だと言っていただけに、謝意と一緒に褒めてもらえるとは予想外過ぎて頬が勝手にニヤけてしまう。

「……なんだよ」
「いえ。お粗末さまでした」

嬉しさを噛み殺せず、満面の笑みでぺこっと頭を下げると、照れくさいのか彗の耳が心なしか赤くなっていた。

それに気付いた羽海の耳も熱くなっていく。