徐々に彗に対する認識が変化し、彼と一緒にいるのが楽しいと感じていた。
ここ一週間は衆人環視での偽の告白に怒っていたので、夕食には必ず彗の嫌いなかぼちゃ料理を一品用意していたが、それに対して不服を言うでもなく、しかし頑なに食べずにラップをして冷蔵庫に戻している様子を見て可愛いと思っていた。
しかしどれだけ印象が変わったところで、彼に恋心を抱くわけにはいかない。
多恵がなにを思って彗に羽海との交際を勧めたのかわからないが、彼が結婚相手に求めているのは、恋愛感情を持たず、かといって外で遊んだりもしない、ただ病院の後継者を生むためだけの存在。
恋愛や結婚に夢を見ている羽海にとって正反対の価値観であり、到底受け入れられない条件だ。
(結婚の話は何度も断ってるのに、どうして御剣先生は私に固執するんだろう。多恵さんに言われたから? ああ見えて、実は私以上のおばあちゃんっ子だったりして)
勝手な想像でクスリと笑っていると、玄関の鍵の開く音がした。
夜の十時を過ぎているし、もしかしたらそのまま病院に泊まるのではと思っていたが帰ってきたようだ。いつも通り夕食を用意していてよかったとホッとする。
「おかえりなさい」
「あぁ。……ただいま」
いまだに小声で照れくさそうではあるが、こうして挨拶を返してくれるようになったところも羽海の心を揺さぶってくる一因でもある。



