天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


彼ならどんな女性でも選び放題なのに、旧友と再会して盛り上がっている祖母の勧めというだけで結婚相手を決めるなんてあり得ない。

かといって彼のようなハイスペックな男性に一目惚れされるだけの容姿を持ち合わせているわけでもなく、すぐに言い合いになることを鑑みれば好意を持たれているわけでもなさそうだ。

傲慢で傍若無人な俺様という噂だけを鵜呑みにして、あまりいい印象を抱いていなかった頃から考えると、彗との物理的な距離が近付いたおかげで人となりも見えてきたし、考え方は合わないが悪い人ではないと思う。

女同士のいざこざは面倒くさいと言いながら、嫌みを言われていたのを庇ってくれたおかげで仕事も格段にしやすくなったし、特に医師という仕事に真摯に向き合い、立場や現状に驕らず努力しているところは素直に尊敬できる。

また数日前、リビングでニュース番組を見ている時に交わした何気ない会話で、彗の柔軟な思考力に感心したことがあった。

政府が世論の批判を受け、当初打ち出していた政策を大きく方向転換させたと報じられていた時のこと。

『コロコロ政策を変えるなんて、信念がなさすぎなんじゃ……』
『それだけ〝聞く力〟があるんだろ』
『聞く力?』
『誰だって最初から完璧なものなんて生み出せない。試行錯誤して最終的にいいものができればいいんだ。自分を過信して突っ走る奴より、人の意見を取り入れて修正できる方が余程いい』

彗の考え方を聞き、羽海は素直に納得したし、短慮に批判するしかできなかった自分を恥じた。

彗が弱冠三十歳で数々の患者を救ってきたのは、こうした柔軟な思考力も影響しているのかもしれない。