天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


『羽海ちゃん、これうちの娘たい。可愛かろう?』
『娘がこの漫画が面白い言うから読んでるっちゃけど、よさがいっちょんわからん!』

九州出身でチャーミングな博多弁を話す彼は、清掃中によく話す患者のひとりで、有名なゲーム会社に勤めている。

小学生の娘さんがいるそうで、よくスマホで写真を見せてくれた。

垂れ目気味な目尻をさらに下げて微笑む野間が患者申出療養制度を使ってまで病気と闘おうとしているのは、心配しながら待っている妻や娘のために一日も早く元気になりたいからに違いない。

彼が入院している四人部屋の病室からはよく笑い声が聞こえ、ムードメーカー的な存在だ。

両親を早くに亡くした羽海は、彼の娘のためにも手術が成功することを祈っていた。

執刀するのは優秀な医師が集まる御剣総合病院の心臓血管外科の中でも抜群の腕を誇る彗。そして彼の父である院長が第一助手に入るらしい。

承認前の耳介後部型の補助人工心臓の使用とあって医学界などでも注目され、ここ二、三日の十二階病棟は緊張感のある空気が流れており、彗は家でもずっと自室に籠もって勉強している。

一度、夜食を持って部屋へ行った際、あまりにも一心不乱に机に向かう彗が心配で声を掛けた。

『あの、できればちゃんと食べて寝てくださいね。先生が身体を壊してしまったら、本末転倒です』

余計なお世話だとはわかっていても言わずにいられないくらい、彼は寸暇を惜しんで知識や情報を取り込んでいるように見えた。