「あの、すみません。昨日から入院している成瀬貴美子の家族の者ですが、病室が変わったようなので教えていただけますか?」
「はい、お待ち下さい。あら、成瀬さん?」
「お疲れ様です」
「ご家族のお見舞いですか?」
「はい、祖母が昨日からこちらでお世話になっていて」

顔見知りの看護師がパソコンを操作しながら、病棟のリストを確認してくれる。

すると「あ、成瀬さんって理事長の……」と呟いたあと、背筋を正して羽海に向き直った。

「成瀬貴美子さんは特別病棟に移られたので、ご案内しますね」
「特別病棟?」

羽海は目を見開いて聞き返す。

この病院の特別病棟といえば、そこらのホテルよりもセレブな気分を味わえると有名な、最上階にあるハイグレードの病室だ。

五十インチの壁掛けテレビに執務作業が捗りそうなデスク、来客をもてなすための重厚なソファセットも完備されており、とても病室とは思えないほどゆったりとした間取りになっている。

スタッフステーションとは別に病棟専属のコンシェルジュもついていて、院外への買い物などを頼めるなど、かなりサービスが充実していると聞く。

また、一般病棟の患者や来客の制限などセキュリティーも万全で、噂では大物政治家や芸能人が利用しているらしい。