天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「バカだな、今さらなにを言ってるんだ」
「え?」

彗の大きな手が羽海の頭に優しくぽんとのせられる。

「愛してる、羽海」

これまでの貼り付けたような恐怖を感じさせる笑みではなく、ひたすらに甘い笑顔で羽海の頭を撫でながら、愛の言葉を告げた。

「な、な……っ⁉」

これには言われた羽海だけでなく、一番近くにいた仁科や周囲の看護師、通りがかった別の科の男性医師までもが泡を食った。

極上のルックスを持つ彗が羽海に視線を合わせるように身を屈め、続けて「羽海だから結婚したいんだ」と懇願するように耳元で囁くと、まるで恋愛映画のクライマックスを見ているような気分に陥る。

その場にいる彗以外の人間が一同に真っ赤になってぼーっとしてしまう中、彼の目の奥が可笑しそうに笑っていることに気付き、真っ先に我に返ったのが羽海だった。

(あ、あぶない……! 私の思惑に乗りたくなくて、わざと公衆の面前で言ってるだけだ。顔がよすぎて騙されるところだった!)

キッと目を吊り上げて睨むと、羽海の考えを裏付けるかのように、彗は悪びれもせずにニヤリと口の端を上げてみせたのだった。