「謝る相手は俺じゃないだろう」
舌打ちしそうな彗の様子に、もう十分だと腕をぽんぽんとたたく。
「ありがとうございます。御剣先生」
羽海が感情的に言い返していたら、こんな風に早く収束はしなかっただろうし、上辺だけの謝罪をされたところで暴言の数々を許せるわけでもない。
「謝罪は求めていません。私はただ患者さんや医療従事者の方が快適に過ごせるように、きちんと仕事がしたいだけです」
羽海はそれだけ言うとこの場を去ろうとしたが、妙案をひらめき「いいことを思いつきました」と先程の彗のようににこりと笑ってみせた。
「ここまで注目を浴びたんですから、私が先生の婚約者ではないと今ここでハッキリさせてください」
羽海の言葉に、項垂れていた女性たちの頭が上がる。どれだけ叱られたところで、やはりその点は気になって仕方がないらしい。
だからこそ、今この場で婚約者うんぬんが誤解であると知られれば、彼女たちも羽海に構う必要がなくなり、病院に平穏が戻ってくる。
バックヤードなので患者はいないとはいえ、この騒ぎを遠巻きで見ていたギャラリーは相当な数だ。



