天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


できるだけ丁寧に希望を伝えたつもりだったが、目を見開き絶句した彗が、憮然とした顔で羽海を見下ろす。

「お前が俺に対するみたいにぽんぽん反論しないから、わざわざ出てきてやったんだろ」
「これからぽんぽん言うところだったんです。庇ってくださるのはありがたいですが、これは私と彼女の問題です。先生がいるとややこしくなるので」
「話を聞いた限りでは業務にも影響してるんだろ? 経営者側の人間から言わせてもらえば、提携先とのいざこざを見逃す訳にはいかない」

至極まっとうな意見だが、羽海にも反論はある。

「そもそも先生が院内で私に話しかけたり婚約者だなんて嘘を言ったりしなければ、ここまで騒ぎは大きくならなかったんです。だから言ったじゃないですか、ご自身がどれだけ注目されてるのか自覚してくださいと」

家にいる時のように言い合いをしていると、蚊帳の外になった仁科や周囲で見ていた看護師たちがポカンとした顔でこちらを見ているのに気がつく。

俺様で傍若無人と言われる彗に、こんな風に意見する人物など見たことがないのだろう。

彗も同じなのか、やや気まずげにガシガシと後頭部を掻くと、仁科とその後ろにも視線を向けた。

「とにかく、このことは看護師長に報告しておく。改めないのならそれ相応の対処をさせてもらう。きっと仁科だけじゃないんだろう。周りで見てた奴も同罪だ。覚えておけ」
「……はい、申し訳ありません」

蚊の鳴くような声で謝罪を口にした仁科や周りにいた看護師たちは、皆一様に肩を落として項垂れた。