天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「彼女の清掃業務が誰にでもできる仕事だと言うのなら、今日からの一週間、病棟の手洗いの清掃は君に任せようか。きっとプロの成瀬さんよりも綺麗に磨き上げてくれるんだろう?」
「そんな! 私は看護師です! トイレ掃除なんて」
「〝誰にでもできる仕事〟なんだから、君には造作無いだろう?」

大きな瞳を涙で潤ませた仁科は彗を見上げているが、得意の上目遣いも彼には一切効力を発揮しない。それがわかると、彼女は俯き悔しげに唇を噛み締めた。

「君の言葉を借りるのなら、患者の目の届かないバックヤードとはいえ大声で理不尽な言いがかりをつけているのは目障りだし、清掃員の仕事を貶すなんて人として底辺の行いだ。うちの病院にはそぐわない」

仁科が羽海にぶつけた言葉を使い、彼女を追い詰める彗は、あくまで笑顔を崩さない。

(これが〝嫌みなほど綺麗に作った笑みを貼り付けて、完膚なきまでにぶった斬ってしまう〟って噂の……)

もはや顔を上げられなくなった仁科と、ようやく恐ろしい笑顔を引っ込めた彗を交互に見比べた後、タイミングを見計らって言葉を挟んだ。

「あの、当事者は私なんですけど」

あれだけ清掃員という職業を侮辱した仁科に同情はしないが、元を正せば彗が病院内で羽海を婚約者などと嘯くからこんな事態に陥っているわけで。

「私が売られた喧嘩ですし、御剣先生は私とは恋愛関係にないと宣言して退場してもらってもいいですか」
「は? お前――」
「代わりにトイレ掃除をされるのも困ります。私の仕事なので」