天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う


「いい加減にしてください」

いざ反論しようと口を開いたところで、背後から聞き慣れた声がした。

「随分な言い様だな」

驚いて振り返ると、男らしい眉根を寄せた彗が、汚らわしいものでも見る目つきで仁科を睨みつけていた。

「うちの病院? いつからこの病院は君のものになったんだ」
「す、彗先生……」

突然現れた彗が羽海をかばうようにして立つ。彼に目を眇めて睨まれた仁科は当初の勢いをなくし、みるみるうちに青ざめていった。

「バックヤードが騒がしいと思えば。まだこんな低俗な嫌がらせをしているのか。見苦しい」
「ち、違います! 私は、清掃員さんにきちんと掃除をしてほしいと指導していただけで……」

必死に弁解する仁科だが、その言葉は徐々にか細くなっていく。

仮にも一緒に働く同僚女性に対し、吐き捨てるような冷酷な声に驚いて羽海が隣に立つ彗を見上げると「いいことを思いついた」と恐ろしいほど美しい笑顔を見せた。

あきらかに作りものだとわかるそれは、なまじ怒り顔よりも背筋が寒くなる怖さがある。