「休憩室のものは部外者に触れられたくないと仰っていたので、床掃除のみと変更をお伝えしたはずですが」

先日の打ち合わせの際、『休憩室に信頼できない部外者が入るのは嫌だ、盗難があってからでは遅い』と、散々羽海を蔑む発言をしたのだ。

しかしさすがに掃除をしないわけにはいかないので、一切部屋のものには触らず、扉を開けたままモップだけかけると話は着地したはずだ。

「そんなの知らないわ。どうしてゴミを捨てるくらい出来ないの? 患者さんからあなたの清掃に対して苦情が入ってるのと一緒に、休憩室も手を抜かれたとそちらの会社に報告させてもらうから」
「そんな……きちんと打ち合わせでお話したはずですし、書面でも残っています。それに、どのお部屋からどんな苦情が出たのか聞かせていただけないと対応ができません」
「知らないわよ。たかが清掃員のくせに偉そうに口答えしないで」

仁科は羽海個人に嫌みを言うだけでは飽き足らず、こうして仕事にまで差し障るような嫌がらせをしてくる。

以前トイレが汚くて掃除が下手だと仁科がわざと廊下で羽海を辱めようとしていたのを、羽海と親しくしている患者から咎められたのが、余程腹に据え兼ねたらしい。

以来、スタッフステーションやバックヤードの清掃中に理不尽なクレームをぶつけられるようになった。羽海の味方になってくれそうな師長や年長のスタッフが不在の時を狙う狡猾なやり口だ。

こうして一方的にクレームを言われているのを、何人かの看護師がクスクス笑って見ているが、誰一人間違っている仁科を諌めようとはしない。